トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いています。

"This side of paradise (楽園のこちら側)" F・スコット・フィッツジェラルド

フィッツジェラルドのこと

唐突ですが…私には好きな本が沢山あって、お気に入りの作家も沢山います。

大学ではスペイン/南アメリカ文学を副専攻にしていたこともあり、ボルヘスガルシア・マルケス、イザベル・アジェンデが大好きです。

オースティンやモームカポーティー、サガンも好きだし、コンテンポラリーだとジュンパ・ラヒリカズオ・イシグロの作品は出版されたら必ず読むし、ラープチャルーンサップも好きです。

ですが、初めて『華麗なるギャツビーグレート・ギャツビー)』を読んだ時の衝撃を超える本というのはなかなかないです。単語と単語の間からキラキラしたハープの音が聞こえてくるような美しくリズミカルな文体、魅力的な登場人物たち、あっと驚き切なさがいつまでも残る、あの結末…!

出来にはかなり波がありますが、フィッツジェラルドの短編小説やエッセイも好きです。明らかにお金のためにかかれたような、なんということはない短編やエッセイからも「その人らしさ」が滲み出てくるなんて…生まれついての作家なんだな、彼はとしみじみ思ってしまいます。

F・スコット・フィッツジェラルドは1896年生まれ。亡くなったのは1940年・44歳の時と決して長い人生ではありませんが、4つの長編小説(『ラスト・タイクーンを含めると5つ)と多くの短編小説やエッセイを残しています。

フィッツジェラルドの処女作、"This side of paradise(楽園のこちら側)"を読みましたので、今日はこの作品の感想を…。

 

This Side of Paradise (Oxford World's Classics)

This Side of Paradise (Oxford World's Classics)

 

最近Oxford University Pressのペーパーバックをジャケ買い(表紙買い)してしまうことが多いです!Penguin Booksも非常に素敵で、本棚に並べるのが楽しいのですけれど、Oxfordもなかなか…フィッツジェラルドの作品はどれも魅力的なフラッパーが描かれていて見惚れてしまいます。

 未読ですが、日本語版も2016年に改めて出版されています。

楽園のこちら側

楽園のこちら側

 

あらすじ

*Spoiler Alert(ネタバレあり)

Amory Blaine(エイモリー・ブレイン)は都会的かつ先進的な母親Beatrice(ビアトリス)に育てられたミネアポリス出身の青年。寄宿学校に入るためアメリカに帰国し、学友たちと楽しい日々を送りながら文学にのめり込んでいく。また、母の友人Monsignor Darcy(ダーシー司教)を父親のように頼り、ダーシーもエイモリーを実の息子のように可愛がる。

その後プリンストン大学の演劇部の台本を読んで感銘を受けたエイモリーは、プリンストン大学へ入学し、大学の新聞に執筆したり演劇部の台本を書いたりしながら友人たちと華やかな大学生生活を謳歌する。幼馴染のIsabelle(イサベル)や文学好きのEleanor(エレノア)といった美しい女性たちとも恋愛を楽しむ。

その後エレノアとの別れを経てエイモリー第一次世界大戦のためフランスへ送られる。

終戦後、ニューヨークにてRosalind Connage(ロサリンド・コナージュ)に出会い、2人は恋愛関係になる。しかしロサリンドはエイモリーにお金がないことに懸念を覚え、エイモリーが「有名になるまでは結婚できない」と言って別れを切り出す。

さらに父親的存在でずっとエイモリーを見守ってくれていたダーシー司教が亡くなっていたことを知り、エイモリーは打ちのめされる。この出来事は、学生時代はあれほど身近だったキリスト教からも離れ、新たな価値観を模索するきっかけとなる。

 

レビュー

若かりし頃のフィッツジェラルド。なかなかのイケメンです。

色素薄めで、いかにもアメリカ中西部出身の好青年という感じではないでしょうか。

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『楽園のこちら側』はフィッツジェラルドの人生抜きでは語ることができません。創作というよりも、ほぼ自身の経験に基づいて書かれた自伝のような作品だからです。

そしてフィッツジェラルドの人生といえば…この方抜きでは語ることができません。

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後のフィッツジェラルドの妻、ゼルダ・セイヤー。

アラバマ出身のいわゆる「southern belle(南部美人)」です。厳格な家庭に育ったにもかかわらず、パーティーの花として常に噂の的だったゼルダ。彼女と知り合ったフィッツジェラルドはあっという間に恋に落ち、2人はすぐに婚約します。

ところがコピーライターとして働くことになったフィッツジェラルドの経済力を危ぶんだゼルダは婚約を解消。フィッツジェラルドはそれを機に故郷のセントポールへ戻り、『楽園のこちら側』を執筆するのです。

この作品はベストセラーとなり、2人はすぐに結婚します。

これはまさに…作中のエイモリーとロサリンドのエピソード!

サリンドは、というよりもフィッツジェラルドの作品に出てくる多くのヒロインはゼルダがモデルとなっています。ゼルダの言動や日記から作品のインスピレーションを得ることも多く、作品のタイトルもゼルダのアドバイスに従って変更されることもあったとか。『グレート・ギャツビー』というのもゼルダの思いつきであったことは有名です。

ゼルダと結婚したいがために、ゼルダについて書いたような小説なのです。

 

New Generation

今でこそ新鮮味には欠ける、プレッピーなお坊ちゃんの小説として受け取られがちですが『楽園のこちら側』は当時非常にセンセーショナルな小説だったと見受けられます。

エイモリーによる詩が多く登場したり、ロサリンドの登場から別れまでは劇中劇という形で語られたり。

もともとフィッツジェラルドが書いていた短編が連なって長編小説になっているようなものなので、書き方がくるくると変わるのですがそこが逆に魅力となっています。

戦後の、若く美しくお金も適度にある新しい世代。苦労した親の世代とは異なり、楽しみを享受して生きようとしている若者たちを描いた作品で、ある種の時代の変遷を切り取った小説です。

また、フィッツジェラルドはこの小説をSigourney Fay(シガニー・フェイ神父)に捧げています。この人物はダーシー司教のモデルとなった人物でフィッツジェラルドにとってメンター的存在でした。小説でもエイモリーカトリック系の学校に行き、神という存在を身近に感じていたのに、戦争やダーシーの死を経て宗教を疑問視するようになります。フィッツジェラルドがこの後カトリックという宗教からは遠くかけ離れたような生活を送ることで有名になっていくことを考えると、なんとも暗示的ですが、そもそも小説を神父様に捧げるほどカトリックという宗教が彼の近くにあったことは少し意外です。

とはいえ、フィッツジェラルドは作中でも、他のエッセイでも、好きな本としてジョイスの『若い芸術家の肖像』を挙げています。

【翻訳】【エッセイ】10 Best Books I Have Ever Read./今まで読んだ本のうち、最高の10冊(F・スコット・フィッツジェラルド)tokyobookgirl.wordpress.com

 こちらもカトリックと大いに関係のある小説ですので、この影響を受けて書いたとも言えるのかなと思います。

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

 

 

時代を象徴する女性になるゼルダ 

ゼルダはこの小説が出版されたのち、最初のフラッパーとして一世を風靡します。

これは『楽園のこちら側』でゼルダをモデルとしたロサリンドが非常に魅力的に描かれていたことが大きい理由だとされています。

エイモリーとロサリンドの会話は、ウィットがきいていてこの部分だけ読んでも楽しいです。

例えばこんな感じ。

Amory. (Quickly) Rosalind, let's get married-next week.

Rosalind. We can't.

Amory. Why not?

Rosalind. Oh, we can't. I'd be your squaw- in some horrible place.

Amory. We'll have two hundred and seventy-five dollars a month all told.

Rosalind. Darling, I don't even do my own hair, usually.

Amory. I'll do it for you.

Rosalind. (Between a laugh and a sob) Thanks.

そう…ロサリンドは蝶よ花よと育てられた南部のお嬢様なので、月たった275ドルのエイモリーのお給料ではとてもやっていけないのです。髪のセットだって毎日美容院に行っているのよ、という会話。エイモリーがその意味も分からず、僕がやってあげるよと返すのでロサリンドは笑っていいのか泣いていいのか、複雑な心境に。

フィッツジェラルドに関してはまだまだ書きたいことが沢山あるのですが、また次の機会に…!

 

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処女作ということもありますし、書き溜めていた短編や詩をくっつけたものということなので若干冗長さが感じられる作品ではあります。

フィッツジェラルドが大好きな方に。1920年代カルチャーがお好きな方に。