トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いています。

『ゾロ 伝説の始まり』 イサベル・アジェンデ

子供の頃のヒーローは?と聞かれたら、迷いなく怪傑ゾロだと答えます!

我が家にはゾロの絵本や子供用のダイジェストがあったので、幼い頃から「弱気を助け、強きを挫く」を提言する存在として憧れていました。

そんなゾロの生い立ちを(想像して)描いた小説がこちら。普段こういう、クラシックの独自の解釈や元々のお話の前後をつなげるような創作作品を手に取ることはないのですが…大好きなイサベル・アジェンデが著者ということでは、読まずにいられません。

ゾロ:伝説の始まり〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ゾロ:伝説の始まり〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 

あらすじ

18世紀末の南カリフォルニアで、スペインから新大陸へやってきた元軍人は、インディアン(北米先住民)の娘に恋をした。娘は半分インディアン、半分スペイン人だがインディアンの部族を率いる立場だった。

ふたりは結婚し、ディエゴ・デ・ラ・ベガという息子が誕生する。ディエゴは同じ週に生まれた使用人の息子ベルナルドと兄弟のようにして育つ。父からフェンシングを習い、母や祖母から先住民族としての生き方を教えられる。

そして、ディエゴの祖母でありインディアン「白いフクロウ」に導かれ、ディエゴは自分の守護動物がキツネであるということを、ベルナルドの守護動物は馬であるということを知る。

ディエゴとベルナルドは青年期を迎えると新大陸を離れ、共にバルセロナで暮らすようになる。ディエゴが尊敬する剣士に弟子入りしたためだ。

バルセロナでは特権・支配階級にはびこる汚職や賄賂、詐欺を目の当たりにし、ディエゴはラ・フスティシア(スペイン語で「正義」)という秘密結社に入団する。マスクを身につけ、「ゾロ」という名前のもと、人知れず暗躍することになるのだが…

 

『怪傑ゾロ』が生まれるまでを描いた物語

アメリカの作家、ジョンストン・マッカレーが1919年に書き上げた冒険小説、『怪傑ゾロ』。映画やミュージカルにもなっていますし、ストーリーは説明するまでもないですが…

1800年代のカリフォルニア・ロサンゼルス(ロス・アンへレス)で暗躍する怪傑ゾロは、地域の問題を解決し、奢る者を制し弱き者を助ける英雄。

その正体はディエゴ・デ・ラ・ベガという青年。普段は少し弱気でぽや〜っとした「ぼん」、お坊っちゃまなのです。その二面性も面白く、ディエゴが恋するロリータに求婚するも、ロリータはディエゴが頼りないと感じ迷ってしまうという恋のエピソードも何かと歯がゆい。ゾロや相棒のベルナルド(口を聞けない青年)の血湧き肉躍る活躍はぞくぞくする、と本当に見所たくさんの小説です。

快傑ゾロ 【新版】 (創元推理文庫)

快傑ゾロ 【新版】 (創元推理文庫)

 

アジェンデの『ゾロ』は、怪傑ゾロはどうして生まれたのか?を補足説明してくれる物語でした。

ベルナルドはどうして口が聞けなくなってしまったのか?

ディエゴはどうして普段ノータリンのお坊ちゃまを演じているのか?

フランス革命がスペインや植民地に与えた影響とは?

アジェンデだからこその視点は鋭く、物語のスパイスとなっています。

この小説の都合上、どうしても説明的になってしまう部分は否めませんが、何故そうなっているのかは小説内で上手く完結させていて…お見事の一言です!この辺りはネタバレになってしまうので書きません。

特によかったと思うのは、旧世界(ヨーロッパ)におけるメスティーソ(白人と原住民の混血)やクリオーリョ(植民地生まれの白人)に対しての差別を非常にうまく描いているところ。

そしてディエゴとベルナルドそれぞれの性格についての細かい描写。「同じ週に生まれたがベルナルドは牡牛座、ディエゴは双子座」という記述もあるのですが、ふたりの性格はまさに違う星の下で生まれたのだと思わせるもので、なんというか細やかで適切な表現だなと思いました。ベルナルドにはどこか石橋を叩いて渡るような慎重なところがあり、ディエゴはいつまでも少年のように伸びやかで明るいのですから…。

 

物語のきっかけは…

イサベル・アジェンデいわく、ある日ゾロというキャラクターの著作権を持つZorro Productionsに「ゾロについての小説を新しく執筆してほしい」と言われたのだとか。

当初は「できません」と断ったそうですが、このオファーはアジェンデの頭を離れませんでした。18世紀のスペイン支配下のアメリカ、独立戦争、ヨーロッパと新世界の力関係…小説の題材として非常に魅力的なものが揃っていると改めて実感したアジェンデはオファーを受け、『ゾロ』の執筆を開始したそうです。

なにしろ映画『マスク・オブ・ゾロ』で怪傑ゾロを演じたアントニオ・バンデラスの大ファンの彼女!(「バンデラスをタコスでつつんでワカモレをつけて食べちゃいたい!」なんてめちゃくちゃキュートな発言もしています笑)

きっと完全無欠のスーパーヒーロー・ゾロについての想像(妄想?)が止まらなくなってしまったのでしょうね…

 *参照までに、ガーディアンのレビューです。上記エピソードも掲載されています。

www.theguardian.com

アジェンデといえば、魅力的な女性を描くことに定評がある作家。 『ゾロ』は男性を主人公とした物語なので、いかに…と思っていたのですが、周りの女性陣の魅力的なこと!

女ながらにインディアンの長である母や祖母「白いフクロウ」、バルセロナで出会いディエゴの人生を見届けるフリアーナとイサベルという姉妹(イサベルはその名の通り、イサベル・アジェンデ本人がモデルとなっていると思われます)、ジプシーの愛人、そしてフランス革命に翻弄された少女アニエス・ドゥシャン(アニエスは後半は登場しないのですが、大人になると「男の筆名で物書きになり、その作品は世界中で知られるようになった」と記述があります。モデルはジョルジュ・サンドでしょうか)。

時代が時代だけに、自身の力で未来を変えていく女性たちは非常に眩しい存在です。

 

『怪傑ゾロ』に見る『べにはこべ』の影響

さて、大人になってから『怪傑ゾロ』を読み返すと、非常に『べにはこべ』に似ていることに気づきます。

 『べにはこべ』は1905年出版、『怪傑ゾロ』1919年出版なので多大なる影響を受けているといっていいでしょう。

普段はなんていうことのない青年が、実は世界を助けるスーパーヒーローだった!というストーリーは、100年以上にわたって愛され、世界中の読者にドキドキとワクワクを届けているのですね。

 そしてこのスーパーヒーローの原型を思いついたのは女性(『べにはこべ』の著者、バロネス・オルツィは女性です)。女性にしか創造できない、理想的な男性だったということでしょうか。

*下は『べにはこべ』のレビューです。

tokyobookgirl.hatenablog.com

 

素敵な女性、イサベル・アジェンデ

そして『ゾロ』の作者も女性! 

アジェンデの著書はどれも独特の魅力があり大好きなのですが、アジェンデ自身も本当に魅力的な女性です。

TED talksで『How to live passionately(情熱的に生きる方法)』というお題でスピーチもしています。要約すると…

「私は71歳。いつも、情熱的に生きることを心がけています。

歳をとって失ったものも多くある。でも魂は永遠に若いままです。

重要なのは人生に対する態度と自由を愛すること。

71歳にもなって情熱的に生きるなんて高望みだと思われるかもしれません。

コツは全てにYESと言い、人生が与えてくれるものを無条件に受け入れること。」


Isabel Allende: How to live passionately—no matter your age

アジェンデの人生は小説のように波乱万丈です。

父は幼い頃失踪、父のいとこ(サルバドール・アジェンデ)はチリの大統領となるがピノチェトの台頭により失脚したため、イサベルもベネズエラへ亡命。その後結婚と離婚を経てアメリカ人男性と結婚し、アメリカへ移住。娘のパウラは28歳の時に1年間の昏睡状態を経て死亡。

娘を亡くした際には3年あまり執筆も止めていますから、どれほど打撃が大きかったか察するに余りあります。

それでも変わることを恐れず、人生が与えるもの全てにYESと言いたいなんて、どれほど懐の大きい、素敵な方なんでしょう!

それにしても、「ゾロ」とGoogle検索すると、ロロノア・ゾロさんばかり出てくる!ワンピース強し。

 

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