トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いています。

"The Clothing of Books" Jhumpa Lahiri

こんにちは、トーキョーブックガールです。 

大好きな作家の一人、ジュンパ・ラヒリ。新作が出たら必ず読みます。

『停電の夜に』を初めて読んだときの衝撃は今も忘れられない。

淡々とした文章は一見アメリカ的にからりとしているようで、どこかアジア的な湿度の高さを秘めている。

まるでインド系アメリカ人(移民の娘)であるラヒリのアイデンティティそのもののような文章とストーリーに強く惹かれた。

そんなラヒリは、数年前よりイタリアに移住し(理由は、イタリアと恋に落ちたからだそう)、夫と子供達と暮らしている。

『べつの言葉で』というエッセイ集はイタリア語で執筆され、彼女のイタリア語のボキャブラリーがどんどん増え、流れるような表現が増えていくのを本を通して知ることができる貴重な一冊だった。

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

 

 そして去年出版された"The Clothing of Books"。

The Clothing of Books

The Clothing of Books

 

こちらは彼女のイタリア語で書かれた本・第二弾。(私はイタリア語では読めないので、英語バージョンを読みましたよ)

 イタリアバージョンはこちら。

もともとイタリアの作家フェスティバル向けにスピーチとして用意したものを、エッセイとして仕立て直したもの。

テーマはタイトルの通り、"The Clothing of Books"、「本の服」もとい本の表紙。

ブックカバーデザインマニアとしては見逃せない!

ちなみに、この本のカバーもいつものラヒリ著書カバーとは雰囲気が違う。

アメリカ・イギリスで出版されるラヒリ作品は、だいたいいつもこんな感じなのだ。

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表紙からスパイスの香りが漂ってきそうな…これでもか〜というインドテイスト。 

"The Clothing of Books"から急にシックなデザインになったのは、彼女の作中の意見が反映されたからに違いない。

なかなか作家が自身の本の表紙デザインについて話すことがないので、興味深く読んだ。

移民先のアメリカでの衣服、インドの学校の制服への羨望から始まって、本のカバーに結びつける話の流れが秀逸。

I am forced, at times, to accept book jackets that I dislike, that I find problematic, disappointing. I tend to give in. I say to myself, Let it go, it's not worth the battle. But I end up feeling afflicted, resentful.

自分の本の表紙は気に入らないものが多いとぶっちゃけるラヒリ。

How is it possible, I ask myself, that my book has been framed in such an ugly cover or banal way?

The right cover is like a beautiful coat, elegant and warm, wrapping my words as they travel through the world, on their way to keep an appointment with my readers.

The wrong cover is cumbersome, suffocating. Or it is like a too-light sweater: inadequate.

私は自分に問いかける。私の本がこんなに醜い表紙や帯をつけられているなんて、どういうこと?

正しい表紙は美しいコートのようだ。エレガントで温かく、読者との出会いのために世界中を旅する私の言葉を包んでくれる。

間違った表紙はやっかいで、息苦しい。もしくは薄すぎるニットのように不十分だ。(訳:tokyobookgirl)

彼女の趣味がポストモダン的というか、現代的ミニマリズムなことが少し意外で驚いた。

ちなみにラヒリが気に入っているという『べつの言葉で』の表紙はこちら。

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「私のしている言葉の冒険をうまく表してくれている」とのこと。

また自分で表紙を選べるのなら、モランディやマティスの絵がいいとも綴っている。

確かに、彼女の作品はモランディの静物画のような静けさというか冷たさをたたえていると思う。

ちなみに私も、ラヒリと同じく表紙に惹かれて本を買ってしまうことが多い。ラヒリの本は書評で知り、手にとって恋に落ちたのだが、もし中身を知らなかったとしたら、彼女の本を「ジャケ買い」することはなかっただろうなと感じた。

ラヒリの作品でインドはモチーフとして出てくるが、決して小説のアイデンティティの核となるものではない。

ふるさとがない移民の人々、誰とも分かち合えない孤独、感情の機微こそが特徴なのであって、アメリカ・イギリス版の表紙は少しdeceivingではないだろうか。

日本語版では『低地』の表紙が素敵。まあ、日本語版は訳が小川高義さんという時点で「いい本に決まってるな」と判断できる!

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最後の

Like every true love, that of the reader is blind.

という言葉が深く心に残る。

まだあまりインターネット上で見つけることができなかったのですが、"The Clothing of Books"が別の言語に翻訳され、新しい表紙がついたらまたこちらにて追記でご紹介したいと思う。

それではみなさま、happy reading!