トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いています。

"Far Eastern Tales" サマセット・モーム

極東とは、東アジア、東北アジアと東南アジアの一部を指す言葉*1

ということで、この夏の旅行のお供はサマセット・モームの"Far Eastern Tales"だった。Vintage Classicsの表紙もどことなくオリエンタル。

Far Eastern Tales

Far Eastern Tales

 

フランス生まれイギリス育ちのモームは、第一次世界大戦では軍医兼スパイ(諜報員)として暗躍した人物。

1919年に、画家ゴーギャンの人生やタヒチでの日々をもとにして書いた『月と六ペンス』で一躍人気作家となる。

月と六ペンス (新潮文庫)

月と六ペンス (新潮文庫)

 

『月と六ペンス』では、主人公(ゴーギャンをモデルにした男性)の名前はストリックランド。

その破天荒さと、神に導かれるかのように常識をかなぐり捨ててタヒチへ行ってしまう描写がドラマチックで、ページを繰る手が止まらなくなる。

子供の頃からゴーギャンの絵にすごく惹かれていたのだが、この小説があまりに面白かったので、こちらも読んだ。

楽園への道 (河出文庫)

楽園への道 (河出文庫)

 

 マリオ・バルガス=リョサの描くゴーギャンと、その祖母で革命家のフローラ・トリスタンの物語。

フローラは「スカートをはいた煽動者」と呼ばれ、女性の自由を求めてヨーロッパで活動。一方ゴーギャンはヨーロッパを捨て、タヒチで芸術に没頭する生活。両極端のような二人だが、どちらも自分にとっての楽園を追い求める人生を全うする。

『月と六ペンス』にも出てくるエピソード(実話)も違う角度から描かれていて、読み比べが楽しい2冊。

 

話が逸れてしまったが、"Far Eastern Tales"は、モームイギリス領マラヤに滞在した経験から書いた短編集。

イギリス領マラヤとは現在でいうマレーシア、シンガポールその他の地域。

緑深く、湿気の多い熱帯地方。故郷イギリスとは180度違うような環境で、小説を読む限りモームはマラヤの自然や人々に畏怖を抱いていたような印象を受ける。

特に印象に残った短編を簡単にまとめると、

 

Footprints in Jungle(ジャングルの足跡*2

マレー半島のタナメラの欧米人居住地で、「わたし」はカートライト一家に出会う。

カートライト夫人はあまり見なりに気を使わない、フランクでお喋りなご婦人。カートライト氏はどちらかといえば疲れて老けて見えるが、優しく夫人を見守っている。

そして娘のオリーブは綺麗とは言えないものの、魅力的な女性だ。

友人からカートライト家の印象を尋ねられた「わたし」は、「オリーブは父親似だね」とコメントする。

すると友人は、「実はオリーブはカートライト氏とは血が繋がっていない。彼の実の娘ではなく、カートライト夫人の連れ子で、あの二人は再婚なんだ」と言う。

詳しい話を聞きたがった「わたし」に、友人はカートライト一家の過去について語り始める。もともとブロンソンという男と結婚していたカートライト夫人。

カートライトはブロンソンの友人で、マレー半島で成功したブロンソンを頼ってイギリスから出てきたのだ。

カートライトはしばらくブロンソン夫妻の家に居候していたのだが、ある日ジャングルの中でブロンソンの死体が発見され…。

 

P. & O.

P. & O.はPenninsular and Oriental Steam Navigation Companyというイギリスの船舶会社の意。

シンガポールからイギリスへ渡る船の中で起こった物語。

夫に浮気され、離婚を決意したハムリン夫人は一人船に乗り込む。ギャラガーという男性に船上で知り合い、世間話をするようになるのだが、ある日ギャラガーはしゃっくりが止まらなくなって寝込んでしまう。

食事もとることができず、どんどん体力が落ちていくギャラガー。

彼は独身だったが、マレー半島では10年以上、現地の女性と一緒に暮らしていた。ある日イギリスに帰ることを決意し、女性に別れを告げるのだが、女性はギャラガーに「イギリスの土を踏む前に死ぬ」という呪いをかけたというのだ。

その話をギャラガーの知り合いから聞き、今時呪いなんてと一笑に付すハムリン夫人だったが、ギャラガーの体調は悪化し…。

 

Mr. Know-All(物識先生*3

「わたし」は電車で、マックス・ケラダという人物と一緒になる。

彼のスーツケースの佇まいからして「わたし」は気に入らない。ケラダはよくしゃべるおせっかいな男で、「わたし」が見たくもない手品を自慢げに披露してくる。

ケラダ氏がどこへでもついてくるので、二人は一緒に甲板を散歩する羽目になりラムゼイ夫妻と知り合う。ラムゼイは神戸で勤務していたアメリカ人で、ニューヨークで待つ妻を拾ってイギリスへ向かうところだった。

神戸といえば真珠、ということで夕食の場では真珠の話になり、ケラダは「真珠なら私より詳しい者はいない」とこれまた自慢する。

ちょうどラムゼイ夫人が真珠のネックレスをしていたことから、ラムゼイが「では妻のネックレスの値段をめぐって賭けをしよう」とケラダに持ちかけるのだが…。

 

モームの文章は簡潔ながら、どことなく東南アジアの熱気が伝わってくるような短編集。

そしてどの話も、怪談のような背筋が寒くなるような展開で暑い季節にぴったり。

魑魅魍魎のジャングルや、熱帯地方という未知への恐怖が伝わってくる。

「東南アジアでは、イギリス人はあっという間に老ける」という文章が何度も出てくることから、おそらく当時は熱帯の気候や湿気で余計に年を取ってしまうと考えられていたのだと推察されるが、そういう部分にもマラヤへの畏怖を感じた。

どうなのだろうか。どちらかというと、湿気が多い方が肌をしっとり保ててアンチエイジングにいいような気もするが。昔のイギリス人はよく長い散歩をしたというイメージがあるのだが、東南アジアに来ると暑さから自由に運動できなくなるので老けてしまう…という可能性もあるかもしれない。

 

さて、何度もご紹介したKevin Kwan小説*4の3冊目"Rich People Problems"にも、この本"Far Eastern Tales"が登場する。

NickのおばあさんSu Yiが、モームのサイン入り初版を持っているという設定。非常に大切にされているらしく、彼女の遺言書にも出てくる。

"Far Eastern Tales"の中でも、あるお話で登場人物がイギリス版"The Tatler(Kevin Kwan小説には何度も登場する、貴族等社交界の花が登場するゴシップ誌)"を読むという描写もあったりと、何かとつながりがあった。

 

余談ですが、この本を読んでいる時に滞在したホテルのスタッフさんがブックマークをいくつも手作りしてプレゼントしてくださいました!

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すごく使いやすくて、重宝しています。

 

諜報活動中はもちろん、リタイアしてからも、生涯にわたり世界中を旅したモーム

日本にも来たことがあり、日本を舞台とした短編も書いている。

(『コスモポリタンズ』収録。題名は『困った時の友』)

舞台は神戸市垂水区。海に面した風光明媚な土地である。旧居留地もいくつかあり、イギリス人も多少なりとも生活していた場所。

コスモポリタンズ (ちくま文庫―モーム・コレクション)

コスモポリタンズ (ちくま文庫―モーム・コレクション)

 

物語に登場する灯台は今も残っている。下記記事参照。 

www.nikkei.com

ちなみに千秋楽を迎えた花組邪馬台国の風/Santé!』ですが、私も滑り込みで観劇しました!宝塚では散々な評判で、内容もだいぶ変わったという風の噂を耳にしましたが、その甲斐あってか?ハードルを下げて観劇したからか?おもしろかったです。

みなさま美しすぎて…。夢の世界を楽しめました。結構耳に残る歌が多かったのもうれしかったです!「卑弥呼さまが男をはべらせた〜♪」とか笑。

水美舞斗さんがすご〜く素敵で、『はいからさんが通る』では鬼島派の私としては、これはもう何がなんでもチケット取らなければという気持ちを強くした次第です。

ではみなさま、今日もhappy reading!

 

*1:Wikipediaより。

極東 - Wikipedia

*2:1959年発売の角川文庫『ジャングルの足跡-他一編』に日本語訳版あり。今は絶版の様子

*3:ちくま文庫コスモポリタンズ』に日本語訳収録

*4:レビューはこちらです。

tokyobookgirl.hatenablog.com

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