トーキョーブックガール

海外文学や洋書レビューを中心に、好きなことをゆるゆると書いています。

"Rich People Problems" Kevin Kwan

"Crazy Rich Asians"*1、"China Rich Girlfriend"*2に続く、Kevin Kwanによる大金持ち・中国系一族シリーズ第3作目! 

1作目の"Crazy Rich Asians"は2010年の物語という設定になっていたが、"Rich People Problems"ではさらに時が経ち、2015年に。 

RachelとNickは結婚し、ニューヨークでNickの一族とは何も関わりのない生活をしていた。そこへ、Nickの祖母Shang Su Yiの容体が急に悪化し、もう長くないと思われるので帰国してほしいと連絡が入る。

Rachelとの結婚にあれほど反対した祖母。それでも両親の代わりに自分を育ててくれた大切な人。Nickは単身、シンガポールへ帰国することを決意する。

シンガポールには親戚一同が香港、上海、イギリス、マレーシア、タイ、オーストラリアから大集合し、祖母の容体よりも遺産や遺書の内容に夢中になっていた。

祖母が住む豪邸Tyersall Parkは一体誰のものになるのか…?

Rich People Problems: A Novel

Rich People Problems: A Novel

 

というのが大まかなあらすじ。

 

変わらず最初から飛ばしてくれるスピード感のあるストーリー展開。

Kwanの小説の特徴は、Singlishやシンガポール、中国系の人々の慣習を説明するために各ページにつけられた注釈。分かりやすく面白い口語体で書かれており、作者を身近に感じられるような作りになっている。

たとえば、上海だか香港だかに訪れた母親が、子供夫婦の家にどうしても泊まりたいと主張するシーンでは、注釈に「アジア人の親はホテルではなく子供の家に泊まりたがるものです。どれほど家が小さくても、片付いていなくても」と書かれている。

同じアジア人からすると「注釈つける必要あります?」なんて思うことも多いのだが、アメリカ人読者を第一に想定して書かれた小説だからこその工夫である。

 

本筋以外に目立つのは、Astridの不倫騒動。第1作目から夫Michaelの不倫疑惑があったり、お金を手にすることで彼の性格が一変してしまったりと、不協和音が流れていた夫婦。

2作目では完全に決裂し、Astridは元恋人のCharles(こちらも既婚だが結婚関係は破綻)と逢瀬を始める。

"Rich People Problems"ではそんな2人が、お互い離婚調停中にもかかわらずお付き合いしていることが世間にバレて大変な目に…。

少し前に日本を騒がせた、とある不倫騒動を彷彿とさせる展開だった("Rich People Problems"では、Charlesの奥様が不倫を耳にして腹いせに自殺を図ります。未遂に終わりますが)。なので少し後味が悪かったかな。

 

また、今回特に笑ったエピソードは、早くNickとRachelに子供を産んでほしいEleanor(Nickの母)のドタバタぶり。

I am her mother-in-law. I have a right to know when she's ovulating!

私は義理の母なのよ。Rachelの排卵日がいつなのか、知る権利があります!

なんて言ってしまう!

いやいや。ないでしょ!笑

前作でも、Nickに"You came out of my vagina. What kind of privacy do you need?(あなたは私の子宮から出てきたのよ。プライバシーが欲しいなんて、笑わせないでよ)"みたいなことを言っていたはず。

億万長者のEleanorですが、中身はお節介でずうずうしい、どこにでもいる中国系の母親なのだ。

こんなこと言っちゃう義母なんて、恐怖以外の何物でもない。しかしながら日本でもきっとバブルくらいまでは、こういうお姑さん多かったのではないだろうか。先日テレビで紹介されていた80-90年代ドラマでは、野際陽子さん扮するお姑さんがこれでもかとばかりにお嫁さんをいびっていて…ふとこのエピソードを思い出してしまった。同じニュアンスのセリフがあったもので。

 

それから、Su Yiの若かった頃の話として第二次世界大戦下のシンガポールが描かれる。日本兵の残虐さがストーリーのキーになっている部分もあり、日本人読者としては少し心苦しい展開。

シンガポールでは義務教育で、日本軍に侵略・占領されていた過去や虐殺のことをしっかりと学ぶ。作者のKwanも含め中国系の方は特に、親戚の方の話などを聞いて育つこともあると思う。

同年代の中国系シンガポール人の知り合い(Kwanの小説ほどとはいかないにしてもかなりのお金持ち)は日本大好きな方が多いのだが、彼らのご両親世代は日本人に対していい感情を持っていないということもちらほら聞いたことがありますし。そういう部分が反映された小説でもある。

 

だいたいの話の流れは予測がつくものの、登場人物が多い&それぞれキャラクターが立っていて濃い!ので最後まで飽きずに楽しく読めること請け合いである。

 

本作はほとんど全編シンガポールが舞台なのだが、Tyersall Parkなどプライベート空間でお話が展開するため、登場するシンガポールの名所は1作目に比べると少なめ。

ただし、ボタニカル・ガーデンは何度も登場する。

1日中滞在したくなる美しさ。

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そしてデンプシー・ヒルにあるPS. Cafeも!

NickとAstridが、遺産相続の喧騒から逃れようと訪ねる。

周りは公園のようになっていて緑が濃く美しく、カフェの中からもマイナスイオンたっぷりの光景が楽しめるシンガポールらしいカフェだ。

Astridも「ようやく呼吸できた気分」だと言っている。

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本当に静かでいいところ。

アジア随一の大金持ちのぼんぼんやお嬢様を描いた、ジェットコースター小説。

いや〜面白かった!

このシリーズも、本作"Rich People Problems"で終了。現在Kwanは「全く違うタイプの作品」を作っている最中なのだとか。もともとアートコンサルタントのKwan、デビュー3部作でもその知識や美的感覚を存分に披露してくれた。

新しい作品も楽しみです。

 

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